2003年9月 「オイルポンプ」


Williamに用いられているオイルポンプは、ウェークフィールド型と呼ばれるもので、マーチンエバンスが多用した方式である。ポンプのシリンダーには排出用の逆止弁だけが設けられ、吸入時はシリンダー内を真空にすることで油を吸い込むようになっている。ポンプは外部からクランク機構(エキセントリックと吊り輪)によって駆動されるが、動輪1回転で1ストロークだと給油速度が早すぎるので、ラチェット機構により減速されている。

図でラチェットホイール(歯車)は回転軸に固定されており、アーム(赤)は固定されていない。アーム下端が左に動くと、上端のフック(青)がラチェットホイールを右にまわし、アームが戻る時はラチェットホイール左下の板バネ(黄)が回り止めとなって、フックだけが戻る。この動作がくり返されると、ラチェットホイールはゆっくり右にまわり、回転軸を介してエキセントリック(偏心円盤)がまわり、それにつられて吊り輪が上下してポンプを動かす。Williamの設計は駆動側にフック、回り止め側に板バネが使われているが、両者はともにフックでも良いし、ともに板バネでも良い。ただし駆動は回り止めより強い力が必要であり、前者はより耐久性のあるフック、後者は工作の簡単な板バネと使い分けているのだと思われる。

オリジナルの設計では、オイルポンプは主台枠内に納められているが、これだとメンテ性が悪くなるのでランボード上に出すことにした。ややスケールオーバーになるのはやむを得ない。動力は加減リンクから取ることにした。



【駆動部品】

駆動部部品
駆動部の全部品。中央の真鍮製の部品がポンプ本体である。シリンダー内径はリーマで仕上げ、弁座はいつものように自作Dバイトで仕上げてからハンマーによるシーティングを施した。



ラチェットホイールはSK4丸棒から作製した。旋盤主軸にチャックし、主軸をインデクスで回しながら、バイトを手で往復させて溝を切っていく。溝を切ったら、前後を突っ切って円盤にする。平岡氏の本と同様のやり方である。この後、熱処理を施して仕上げた。ラチェットホイールと回転軸とは、ロックタイトで接着固定した。
切削方法ラチェットホイール


吊り輪の穴開け
吊り輪はS45C炭素鋼から作った。穴部分をエンドミルで仕上げたのちに、切り出して外形を仕上げ、焼き入れ処理を施した。ラムは2.5mmφの快削ステンレス製で、吊り輪にロックタイトで接着した。


エキセントリック穴開け
エキセントリックはリン青銅丸棒からの削り出しである。まず旋盤で外形を仕上げてから、ミニフライス盤で偏心した位置に軸穴を開けた。穴はリーマで仕上げた。セットビスにより回転軸にロックされる。


フック型紙
フックは微妙な形状をしている。S45C平板に所定の穴を開け、CADで印刷した型紙を貼り付けて、糸ノコとヤスリで仕上げ、熱処理をした。


アームのローラー法仕上げ
アームの外形を仕上げるのに、HO工作で使われるローラー法を駆使した。材料を切り出して穴を開け、両端と中央部の3ヶ所にローラーを入れる。このまま全体をヤスリで削り込めば、機械加工の精度で外形を仕上げることができる。真鍮ローラーだと削られそうな気がするが、ヤスリがローラーに達するとローラーが回転して逃げるので、ヤスリはこれ以上進入できなくなる。ここがミソで、ローラーは軽く回転する状態にしておかないと、全く意味がない。



逆止弁のスプリングは、球弁を直接押すのではなく、カップを介して押している。これにより力は中央一点に集中され、さらにボールへの傷付き防止にもなる。カップにはオイルの通路が必要であり、ここでは外周に4本の縦溝が切られている。溝はあとからヤスリで切っても良いのだが、大きめの材料を用いて溝位置にあらかじめ穴を開けておき、穴が露出するまで外周を削り込んでいくと、溝が形成される。
スプリングカップ加工(1)スプリングカップ加工(2)

コイルスプリング巻き
コイルスプリングは例によって自分で巻いた。極端に細いので、マンドレルにはドリルのシャンク部分を利用した。しなり防止のため、ドリルと同じ径の穴を開けた真鍮丸棒で心押し側からサポートした。これを巻き初めの直近まで挿入しておき、巻きながら右に退避させる。この方法を用いれば、どんなに細くて長いコイルでも巻くことができる。



【操作ハンドル】

操作ハンドル
通常、オイルポンプは箱に収められてランボード上に設置されているが、たたでさえスケールオーバーなのに、さらに外箱をかぶせるとますます巨大になってしまう。そこで、カバーは付けずに機構をむき出しとして、アクセント代わりに操作ハンドルを付けることにした。英国型では一部そういう機種もある。できあがるとハンドルが相当に目立つので、できるだけ見ばえ良く作ることにした。


ハンドル輪心加工
円弧状の切り欠きをきれいに仕上げるため、輪芯とリムを別パーツで作った。まず真鍮角棒にエンドミルで円弧を切り、これを所定の外径まで削り込んでいく。角棒を用いたのは、四方向の円弧をインデクス加工で軸対称に仕上げるためである。


ハンドル最終旋削
ここに、リング状に仮仕上げした部品をロウ付けし、再びチャックしてまとめて外形を仕上げる。テーパー状の断面もここで削り出す。煙室戸ハンドルと同じ方法で中央に角穴を開け、突っ切って、コックをロウ付けして完成となる。



【オイルタンク】

タンクのロウ付け
オイルタンクは真鍮板で組み立てた。側板4枚は2.0mm厚、底板は1.2mm厚、フタは3.0mm厚である。側板と底板はM1.4のビスで組み立ててロウ付けしてからビス頭を削り落とした。まず瞬間接着剤で仮組みしてビス穴を移し開け、ばらして接着剤を除去する(面倒なのでバーナーで焼き飛ばした)。酸洗いしてフラックスを塗って組み立て、全体を赤熱させながら差しロウでロウ付けした。



完成

すべてを組み立てた状態。フタはM2ネジをヒンジ代わりに使った。3mmという厚板を用いたのはこのためである。折れ込み防止のため、ネジは側板側に切り、フタ側はバカ穴とした。フタには取っ手は設けず、左に凸部をつけてここに指をかけて引き上げるようにした(実用本位)。板バネは現物合わせで位置を決めて最後に取り付けた。材料は、バネ用ステンレス鋼が良いらしいが、手に入らなかったのでリン青銅板を用いた。長穴を開けてネジで固定し、摩耗したら長さを再調整できるようにした。


(終)


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