2003年8月 「ハンドポンプ」


WILLIAMの設計図にはハンドポンプは含まれていないが、鋳物セットには得体の知れないポンプ本体の鋳物だけが入っていた。この鋳物の寸法と、他の機種の図面を参考にして、新たに設計した。といっても、形状は極めてオーソドックスなものである。

注意点として、ラム(ピストン)をめいっぱい押し込んだ時に、シリンダー底に空洞を残さないように、穴の底とラムの先端とを同じ形状に仕上げなければならない。さもないと「エア噛み」が発生し、たまった空気が排出されずにクッションとなり、ポンプの能力が落ちることになる。理想的には、前死点でラム先端がシリンダーを貫通して弁室にまで侵入するようにしておけば完璧である(軸動ポンプはそういう設計になっている)。ラムはOリングシールにするが、ポンプ本体の外径に余裕がなかったので、Oリングをシリンダー側ではなくラム側に埋め込む構造にした。水の排出側はユニオン接続となる。吸入側はストレートの筒だが、水の供給方法は次回に説明する。


ハンドポンプ部品


【ラム】

13mmφの快削ステンレスの外径をそのまま利用した。突っ切りバイトで、Oリングを入れる溝を掘る。Oリングのつぶし量は規格よりやや少なめにした。溝のエッジはなめらかに面取りしておかないとOリング挿入時に傷を付けてしまう。


【ポンプ本体】

ハンドポンプ鋳物
ハンドポンプの砲金鋳物。左に弁室が付いているが、サイズが合わない上に、鋳物だとかえって加工がしづらいので、切り捨てて真鍮丸棒で作り直することにした。残りは円柱と台座だけの構造で、真鍮の無垢から作っても大した手間ではないのだが、砲金鋳物の方が耐久性は期待できるだろう。


本体底の仕上げ
まず台座の底を仕上げる。ボアはここと平行に仕上げるので、筒部分が主軸と正確に垂直になるようにチャックして削る。


ボアの加工
四爪チャックでシリンダーの穴を掘る。ドリルで下穴を開け、ラムとのはめ合いを確認しながら中繰りバイトで仕上げた。穴はOリング摺動面となるので、#1000のペーパーで研磨した。
さらに入口部分だけ外周も仕上げた(加工後にボアの中心高さを正確に計り取るため)。使用したバイトは、クロスヘッドの加工に用いた自作バイト。



【操作レバーと延長ハンドル】

操作レバーの旋削
延長ハンドルの構造は平岡幸三氏のペンシルバニアと同様で、そちらを参照のこと。先に延長ハンドルを作り、これに合うように操作レバーの挿入部を加工する。写真はレバー側面の曲面加工をしているところ(レバー穴の内径とのはめ合い)。



【弁座加工】

排出側の逆止弁弁座は、自作Dバイトで加工した。使うたびにバイトを研ぎ直してバリが出ないようにする。以前は、漏れのない弁座を作るのにずいぶん苦労したものだが、気密テストにクロム球を使うようになって、ほぼ一発で合格するようになった。実際に使うステンレス球は、気密テストで選定した方が良い。

吸水側の弁座はニップルとして別部品にした。これもオーソドックスな方法である。Dバイトで加工するよりも弁座精度は高くなる。弁座の仕上げは、ハンマーによるシーティングではなく、旋盤によるバーニッシュを行った。詳細は軸動ポンプの項目を参照のこと。


【組み立て】

関節部の接続ピンの固定には、例によってEリングを用いた。某社のライムスチームでここをナット止めにしている例があり、緩んでピンが抜け落ちるというトラブルを目撃している。接続ピンはS45C製で、溝入れ後に焼き入れを施した。

ハンドポンプ組み立て

操作レバーを前に倒していくと、ラムが後ろに引き出され、レバーの下部前端面がラムの溝の底に当たったところで止まる(写真の状態)。すなわち、ここが後部ストッパーとなる。望みのストロークになるように、ラムの溝深さを決めた。


(終)


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