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2021年10月 「煙室(1)」


完成したボイラーを車体に搭載するためにはそれを受ける煙室が必要である。ということで、次は煙室の製作となる。


まず煙室戸と前板から。いずれも砲金鋳物の鋳造を依頼した。C53の煙室は、フロントデッキ下にグレズレー弁装置を格納するため、下部が弦で切り取られた形状をしているのが特徴である。煙室戸の鋳物は、加工時に旋盤で安定的に把持するための広めの突起を設けている。



鋳造用の木型を示す。左が煙室戸用で、捨型を用いて裏面をえぐっている。右が前板用で、こちらはシンプルな片面木型である。材料は灰色のケミカルウッドで、いつものようにMODELAで加工した。



煙室戸鋳物の加工から開始。裏面を表にして突起部分を四爪チャックで把持し、裏面と外周を仕上げ、中央に6mmの穴を開ける。穴はリーマで仕上げておく。下の弦の部分はフライスで仕上げる。




ハンスレットでは煙室戸表面は鋳肌のまま使用したが、C53では外観を重視して、表面もすべてクリーニングする。煙室戸を主軸に取り付けるため、動輪加工に用いた大型円盤を再利用して、面板を拡張する。中央のヤトイは新たに用意したもの。



ここに煙室扉を載せて中央をナットで固定する。その際、弦の部分はヤスリ仕上げの障害となるので、真鍮で作った弧を取り付け、煙室戸とともに完全円に仕上げる。ここで気付いたが、鋳物の時点で煙室戸を完全円にして、加工後に下を切り取る方が簡単なのだった。



いつものように座標を計算して一覧表を作り、バイトを微動させて細かいステップで荒削りし、ヤスリレースで表面を滑らかに仕上げる。ご覧のように真鍮部分はいっしょに削られて、円の一部になり、ほとんど見えなくなる。この部分がなくて弦のままだと、そこにヤスリが引っかかって、綺麗に仕上げられないというわけである。中央部はナットの部分だけ残して加工する。




加工の終わった周辺をクランプして中央のナットを外し、ナットの下を削り落として仕上げる。



仕上がった煙室戸。裏面のくぼみ部分は鋳肌のままで、それ以外は全て加工されている。




続いて煙室前板鋳物を加工する。まず四爪で内周をチャックし、外径、裏面、そして外周周囲の段差加工をする。



表面を表にして、厚さを仕上げる。表面には段差があり、さらに段差の断面は曲線で接続されている。これはバイトを0.1mm単位で計算どおりに動かして細かいステップを削り、ヤスリレースで仕上げた。



煙室下部に弦があるので、内周側を旋削で仕上げることは出来ない。ロータリーテーブルに固定してエンドミルで仕上げた。最後に、削り残した外周の弦部分を仕上げる。ここも段差加工が必要。



仕上がった煙室前板。こちらは完全に全面加工されている。




煙室胴は鉄板を曲げて作るのだが、手持ちの曲げロールの能力を超えているので、いつもの広島スチールに、レーザー加工と曲げ加工を外注した。厚さは2.3mm。曲げ加工後に、弦の部分を切り取ってもらった。歪みもなく、ピッタリ指定通りの直径に仕上げられていた。


次回より、細かい部品を製作して煙室を組み立てていく。

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