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2010年1月 「蒸気室蓋(2)」


蒸気室蓋まわりの断面図を示す。実機では弁棒がグランドでシールされているが、内側給気のピストンバルブの場合、シールは不要である。グランドの外観だけを表現した単なる軸受とする。グランドはシリンダーブロックと蒸気室蓋の両方にまたがっていて、蒸気室蓋はこれで芯出しされる。同時に蒸気室ブッシュを両側から押して、軸方向の位置決めをしている。



グランドは砲金丸棒から作る。芯ズレを防ぐため、三爪チャックして、片側から全ての形状を加工する。突っ切って反転し、全長を仕上げ、穴を途中まで少し拡大する(断面図参照)。軸受け距離を必要以上に長くすると、わずかな傾きで軸が動かなくなるからである。両側のグランドのうち前部グランドは、最終寸法より0.2mm厚く仕上げておく。



実物は菱形のフランジでシールされている。ロータリーテーブルで菱型の形状を削り出す。ここで固定ボルト(ダミー)の穴も開けておく。



側面が外から見える後部グランドについては、サンディングディスクで切れ目を入れて、フランジの分割ラインを表現した。



蒸気室蓋をシリンダブロックに取り付けるための穴開け治具を用意した。50mmの鋼棒から作ったが、レーザ加工で用意すればもっと簡単である。治具の側面には、角度合わせのための四分割線がけがいてある。



蒸気室前蓋は、下部に溝状のリブがあり、固定ネジのひとつはこの間に入れなければならない。六角ネジは入らず、六角穴付きネジがぎりぎり入る。取り付け穴の角度はここを基準に決めなければならない。まずここに大きめの穴を開け、治具を重ね合わせ、グランドで芯出ししてネジ止めする。この状態で、残りの穴を治具から前蓋に移し開ける。



蒸気室後蓋も同様に移し開け。こちらは、形状から角度を決めて一気にすべて移し開け。



シリンダブロックのネジ穴は、蒸気室蓋から直接移し開けたいところだが、蒸気室の構造物が邪魔でドリルが届かない部分があり、ここも治具から移し開けた。治具の方向、表裏を間違えてはいけない。ここでの芯出しには、蒸気室ブッシュを使った。固定ボルトはM3。治具を通して3mmの皿モミを入れ、治具を外して2.5mmの下穴を開け、タップを立てる。まずクランプした状態で2ヶ所の穴を移し開け、その穴を使って治具をネジ止めして、残りの穴を同じ手順で移し開けた。



タップを立てるときはいつもこのような方法でやっている。下穴を開けた位置を保持したまま、ドリルチャックを二重に使ってタップを保持する。この状態で上のチャックをわずかに緩め、タップハンドルが自由に回転・上下動できる状態にして、タップを立てる。タップにねじ込んでいるナットは、止まり穴の深さの目安である。この方法でやれば、まずタップを折ることはない。チャックの傷みが心配だが、この方法で何百というネジ穴を開けてきて、チャックに不具合は生じていない。



内側蒸気室は、後部への接続がない。ここの後部カバーは、単純なナベブタ型をしている。ご覧のような鋳物から加工する。



テーパーの軸受部分をチャックするため、真鍮製の簡易コレットを使った。真鍮丸棒を鋳物のテーパーに合わせてテーパー穴加工し、取り外して一端をノコで切り開く。三爪の爪位置をマークして同じ位置にチャックすれば、より誤差が少なくなる。これで鋳物をチャックし、はめ合い段差を加工して、貫通穴を開けてリーマで仕上げた。



これも同様に治具で取り付け穴を開け、シリンダブロックに取り付ける。軸の末端と油壷位置にネジを入れている。末端のネジには、中央に空気抜きの穴を開けた。



最初の加工で0.2mm厚く仕上げたグランドを、ここで最終加工する。後部の蒸気室蓋のみ取り付けて、前後のグランドと蒸気室ブッシュを入れ、シリンダブロック前端面とグランドとの段差をハイトゲージで測定する。そしてグランドの方が0.05mmだけ高くなるように、グランド厚さを最終調整する。これで前蓋を締め付けると、シリンダー鋳物全体が0.05mm変形して、蒸気室ブッシュのガタを完全に取ることになる。ちなみに、この時点ですべての部品には刻印を打ち、組み合わせ固定としている。



蒸気室蓋とグランドの間は、潤滑油管で接続されている。蓋の油壷をふさぐネジを変形ネジとして管を表現した。これはグランドの回り止めも兼ねている。油壺はダミーであり、ここから注油はできない。



ピストン弁を入れて、すべての蓋を組み上げた。この状態で、弁棒が自由に回転することを確認する。もし回りが悪ければ、前後のグランドの芯が出ていないということになる。これはスムーズに回ってくれたのだが、弁の前後動が予想以上に固い。どうもピストンリングの張力が強すぎるようである。ピストンリングに関しては、別の方法で作り直すことを考えている。



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