2003年3月 「ドレン弁」



シリンダーの凝結水を排出するための弁がドレン弁である。小型のライブではコック式が用いられることが多い。図の丸い部分が、コックの断面であり、横穴が開いていて、コックを90度まわすことにより開閉される。WILLIAMの設計にはドレン弁は含まれていないので、平岡さんのペンシルバニアと、マーチンエバンスのRob Royを参考にして設計した。蒸気通路と吹き出し口の内径は1.6mmとしたが、これはOSのC11と同じサイズである。英国機は吹き出しを銅管で導いて前方に出すようになっているが、今回は日本型の実機にならって、真横に吹き出すようにした。弁体の底に、外向きのクロス穴を開けるだけで良い。


テーパーピンとリーマ
漏れを最小限にするため、コックはテーパー形状にするのが通常だが、精度のよいステンレス丸棒とリーマ穴の組み合わせでも実用に耐えるらしい。しかし手持ちの材料の関係もあり、3mmのステンレス製テーパーピンを利用することにした。ピンを受ける弁体は真鍮製とし、穴はテーパーピンリーマで仕上げる。1/50というテーパーなので、ピンが0.5mmゆるんだとしても、隙間は0.01mmしか増えない。したがってピンを固く押し込んだまま動作させる必要はない。ステンレステーパーピンの材質はSUS303であり、簡単に加工することができる。


穴のテーパー化
弁体への横穴開けは、角棒から治具を作成してここに加工物を入れ、穴をガイドにしてドリルで開けた。ドリル主軸位置を固定したまま、ここでいったん治具の穴を拡大し、テーパーピンリーマをチャックし、再び加工物を順次入れ替えながら、主軸手回しで穴をテーパー化した。途中でピンを挿入してみて、先端の突出量を見ながらリーマの深さを決め、全ての弁体を同じ深さまで加工する。


Eリング位置決め
テーパーピンは弁体に挿入してEリングで止める構造にした。Eリング溝位置を決めるため、ピンに弁体を差し込み、突っ切りバイト位置を決める。この後、バイトを手前に待避させて弁体を抜き、写真右に見える真鍮棒で心押しをして、ピンの溝入れ加工をする。なお、テーパーピンは全長にわたってテーパーなので、三爪チャックすると不安定になる。真鍮丸棒でテーパー穴のヤトイを作ってここに叩き込み、根元を平行加工しておく必要がある。


アール仕上げ
ピンは、クランク機構(アームとクランクピン)で回転する。アーム端部の曲面は、HO工作で用いられる方法で加工した。すなわち、ピン穴に軸を通し、この両端に加工半径に等しい筒を入れ、これを頼りにヤスリで整形する。ヤスリがすべって筒が回転するところまで削れば、端部は正確な半円形に仕上がることになる。



テーパーピン、アーム、クランクピンを銀ロウ付けで組み立て、テーパーピンに横穴を開ける。穴の角度はアームに対して45度、すなわちアームが45度前倒しで閉、45度後ろ倒しで開となるようにする。真鍮六角棒から加工用の治具を作ってこれに押し込み、三角定規で角度を出して開けた。

ピン横穴開けドレン弁本体完成

さて、今月も例によって失敗の報告だが、今回は全く単純なミス。テーパーピンを差し込む方向を間違えてしまったのだ。本来、内側から差し込むべきところを外側からリーマで拡大してしまった。しかも弁体完成後にやっと気づいた次第である。弁体を180度まわせば良いのだが、そうするとドレン吹きだし口が内側を向いてしまう。そこで、いったん吹き出し穴を内から外に貫通させ、内側には途中までタップを立て、真鍮ねじを固くねじこんで切断した。さらに、弁体はシリンダーに固くねじ込んだ状態で、ピンの方向を決めているので、これを180度回すためには、弁体の段差部分をねじピッチの半分の厚さだけ削り取らなければならない。治具を使って旋盤にチャックして追加工したが、どういう加減か1個だけ180度を通り越して270度くらい回ってしまった。ここでさらに1ピッチ分削るとここだけ弁体が低くなってしまうので、厚さ0.1mmのリン青銅板からワッシャを作って挿入した。まずリン青銅板を1mm厚の真鍮板でサンドイッチしてドリルを貫通させ、これをハサミで切り出した。やれやれ。


操作レバー組み立て前後のドレン弁のクランクピンはミニ・サイドロッドで連結されて連動する。後ろのクランクピンは少し内側に延長されていて、ここに駆動レバーの穴(組み立て誤差吸収のため縦長穴にする)が入り、駆動される。左右の駆動レバーは軸で接続されて連動する。軸はポニー台車をまたぐ形となった。ドレン機構を分解しないと台車がはずせなくなったが、やむを得ない。
ここからアームを介して、いったん主台枠上部の別の軸に回転を伝達し、ここからリーチロッドが運転室まで延びることになる。逆転機のリーチロッドが左側を走っているので、ドレン弁のリーチロッドは右側に設置した。リーチロッドおよびレバー類の作製手順は逆転機と同様だが、見えない部分なので多少簡略化した。とはいえ凝り性の私がやると、軸固定ブラケットまでロータリーテーブルでアール加工してしまうことになるのだった・・・


キャブ内のレバーは上下に動かすタイプにして、火室のすぐ右、主台枠側面に取り付けた。レバーを上に上げるとミニ・サイドロッドが後ろに引かれてドレン弁が開となる。レバーの軸部分にスプリングワッシャを組み込んで、多少レバーを固くした。軸はφ4とM3の段差加工とし、ナットをかたく締めてもスプリングワッシャが完全につぶれないようにした。スプリングの効き具合は段差加工の高さで決める。丸棒をブラケット裏面まで突き出してロウ付けし、軸の裏側を三爪チャックして、スプリングワッシャの締まり具合を見ながら段差加工をした。軸の裏面側は、このあと切断して平面に仕上げる。こんなややこしいことをせずダブルナットにすれば、のちのちの調整も自由にやれるのだが、ダブルナットはどうも好きになれない。

軸の段差加工 キャブハンドル


運転台モックアップドレン弁操作レバーを含め、今後はキャブ内の機器類を作っていくことになるが、キャブ・レイアウトの良否で運転のしやすさが決まってしまう。図面上で問題がなくても、できあがってみると手が入れにくいなどということもあるので、ボール紙で運転室のモックアップを作り、後ろから手を入れてみて、各機器の位置を決めることにした。
右利きの人は、キャブ左側に機器類がある方が操作しやすい。キャブの幅は肩幅より狭いので、手首をひねらないと右側に手を入れられないのだ。よく操作する機器類は左側に設け、右側に設ける機器は、楽に手が届くことを確認しておく。さらに、ライブの運転操作で最もやりづらいのが投炭であり、機器を配置する際は常に投炭の邪魔にならないことを確認しながらやるのが良い。特に小粒の石炭をショベルで投炭する場合は、ショベルが楽にアクセスできるスペースの確保が必要である。また、運転手の視線はキャブ後ろからというよりほとんどキャブ上からになる。天井の切り欠きの大きさと、キャブ内の機器の配置に注意し、水面計、圧力計は当然のこと、操作機器類についても全て見えるように配置するのが良い。今回のドレン弁レバーの位置は、以上を満たすぎりぎりの位置に設置することになった。操作性確認のため、途中で焚口戸を作ったが、これは来月紹介する。


(終)


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