2003年2月 「スーパーヒータ」


スーパーヒータ(過熱管)は、加減弁から出た蒸気を煙管内に導き、再加熱するためのものである。いずれにせよ火室で発生するエネルギーは一定なので、スーパーヒータを使ったからといって単純にパワーアップするというものではない。では、どういう効果があるのか。
ボイラー内の蒸気の温度は、ボイラー圧力で決まる「飽和蒸気温度」以上には上がらない。ライブの圧力では150度以下である。加減弁から出た蒸気はどんどん冷えてゆき、シリンダーを動かして煙突から排出されるまでの間に、一部は水に戻ってしまう。蒸気が水に戻ると、体積は1600分の1に減る、すなわち気体が消滅してしまうことに等しい。せっせとシリンダーに送り込んだ高圧ガスが、シリンダーに入った途端に消滅してしまうのである。これでは機関の効率が大幅に落ちることになるので、蒸気の復水は何としても防がなければならない。そのために用いられるのがスーパーヒータであり、ここで蒸気温度をさらに上げて復水しにくくしているのだ。他のメリットとして、シリンダーを同じ圧力で動かすのに、低温の蒸気より高温の蒸気の方が少ない質量で済むので、スーパーヒータを付けると水の節約になる。
ライブスチームにおいては水の消費量はあまり問題にはならないが、煙突から水しぶきを上げたりドレイン弁から水を垂らしながら走るのは、趣味的にも好ましくない。しかし一方では、スーパーヒータを付けると煙管が詰まりやすくなるというデメリットもあり、その要否は意見の分かれるところである。WILLIAMに関しては、すでに大煙管を付けてしまっているので、スーパーヒータ使用を前提として考えたい。そうでなくとも「スーパーヒータ」などという小粋な名前の部品は、たとえ蛇足でも付けたくなるのが人情というものである。


【煙室配管設計】

オリジナルの設計では、煙室を上下に二分割して、配管作業をやりやすくしている。しかし真鍮の太いパイプを縦に割ると、内部応力のため切り口が開いて真円が崩れてしまう。さらに継ぎ目とネジが露出して外観も悪くなるので、上下分割はしないことにした。などというのは言い訳で、単に面倒な工作を避けたかっただけである。そのかわり、煙室、スーパーヒータ、蒸気管、シリンダーを注意深く設計し、一切の調整なしに、最低限の部品点数で蒸気管を接続できるようにした。



正面図と側面図を見ればわかるとおり、スーパーヒータの入口側が90度に曲がっている以外は、全て直線の配管になっている。蒸気管も、煙室の壁を貫通してストレートにシリンダー内に入るようにした。この構造にするには、シリンダーおよび煙室の穴を高い精度で仕上げておく必要がある。といっても限界があるので、煙室の穴は蒸気管の直径より0.1mmだけ大きくしてある。


【過熱管組み立て】

スーパーヒータ
加減弁からの蒸気は、ボイラー内部を通ってウェットヘッダーに入り、ここで左右に分岐して過熱管(スーパーヒータ)に入る。大煙管内を往復した過熱管は、エルボを介して蒸気管と接続される。ウェットヘッダーからエルボまでは、全てロウ付けで組み立てる。ウェットヘッダーとエルボは真鍮製、過熱管の折り返し部はステンレス製にした。以下、製作の手順を示す。


万能曲げ工具
銅管の入口側は、90度に曲げてから所定サイズに切断した。写真は、英国から通販で買った万能曲げ工具だが、この程度の配管であればわざわざ工具を使うまでもないだろう。


リターンベンド過熱管の折り返し部は高熱ガスにあおられる部分なので、耐熱性の高いステンレスを用いた。角棒からブロックを作り、片側から2ヶ所穴を開け、側面からクロス穴を開け、プラグで塞ぐ。穴開け後に周囲をヤスリで丸く仕上げ、肉厚を薄くしておく。ここのロウ付けは、銀ロウではなく黄銅ロウが良い。少量入手ができなかったので、代用品としてHOの工作に使っていた1mmφの真鍮線を用いた。専用のものとくらべて流動性は悪いが、融点はほぼ同じである(約900度)。フラックスも銀ロウ付け用のものだが、短時間で済ませれば問題ない。真鍮線を接続部に巻きつけ、フラックスをたっぷり塗って、大きめの火口で一気に加熱する。融点が銀ロウより300度近くも高いので、銅管とステンレスが真っ赤に焼けるまで溶けない。黄銅ロウ付けを一度経験すると、銀ロウ付けがとても簡単に感じられる。

エルボ位置決め
残りの部品を銀ロウ付けで組み上げていく。ボイラーに無理なく取り付けられることを確認しながら進める。最後のエルボの位置、角度は、全ての配管を借り組みして決め、ロックネジで固定してからロウ付けし、ネジは切り落とした。煙管はボイラー内でわずかに傾いているが、この分の修正はわずかなのでフリーハンドで行った。


スーパーヒータとシリンダーの接続手順はよく考えておく必要がある。というか、手順が決まらないと構造も決められない。まず蒸気管を煙室内部から外に向かって出し、先端にロックナットを入れてから、シリンダーブロックに深くねじ込んでおく。続いて、スーパーヒータを煙室前部から挿入し、ウェットヘッダー部分をボイラーの煙室管板にねじ止めする。そして、蒸気管を緩めながら反対側をエルボにねじ込み、適当なところで両端をロックナットで固定する。最後に蒸気管とシリンダーの接続部もロックナットで締める。なお、オイルポンプからの配管は、蒸気管側面にねじ込んで接続する予定である。


【排気管】

排気T字管続いて排気側の配管だが、シリンダーから中央に向かって短管が出ていて、中央のT字管で合流して上に向かう。見るからに組み立て困難な構造だが、ねじピッチを工夫することで組み立ても調整も容易になる。短管の接続部は左右で4ヶ所あり、いずれもM10ねじだが、ねじピッチを向かって左から、1.0−0.75−1.0−0.75mmとしている。まず短管を両シリンダー奥深くねじ込み、中央にT字管を保持して両端から短管をねじ込んでいく。左右のねじ山がうまくかみ合わないと簡単にはねじ込めないが、短管両端のピッチを変えているので、ネジ山を自由にシフトできる。さらに両端からねじ込んでいくと、T字管はゆっくりと右に移動する。ピッチの違いにより、左の短管はT字管を押し出し、右の短管は引っ張るからである。これによりT字管の左右位置を微調整することができる。シフトを見越して、スタート時はT字管を少し左に寄せておく必要がある。調整が終わったら、ネジのガタを「引っ張る方向」で取り除いてから、ロックナットを締めつける。

吐出口
T字管の先端には吐出口が付く。ここもロックナットを用いて、高さ調整ができるようにした。吐出口の位置、サイズは、1:3、1:6の法則(「ライブスチーム」参照)で決める。通風弁からのブロアー配管(ボイラーを貫通している)は、吐出口の横から接続され、煙突に向かって斜めに吹き出すようになっている。


銅管整形
ブロアー配管は、事前に銅管を図面上で曲げて整形した。必要寸法より長めの材料で形を仕上げ、あとから両端を切り取る方が作りやすい。両端のバリを取り、袋ナットを通して、ユニオン接続の口金を銀ロウ付けする。ここを現物合わせで整形しようとすると、焼きなましと曲げを何度も繰り返したあげくに、ナットでむりやり締めつけて、つじつまを合わせることになるであろう。



【スニフチングバルブ】

ライブをやらない人にとっては聞き慣れない名前だが、国鉄型でいえば空気弁に相当する。シリンダーの側面に付いている家紋のようなあれである。機関車の走行中に、急に加減弁を閉じるとどうなるか。シリンダーが真空ポンプとして作用し、蒸気管内部が真空になってしまう。スライドバルブの場合は、弁体が浮き上がって給気と排気を短絡するので、直ちにポンプ作用は止まるが、ピストンバルブでは弁が常に密着しているので、急制動が掛かる。さらに過熱管の熱伝導がなくなって、焼損することもある。これを防ぐため、蒸気管が減圧されると開いて外気を取り入れる、これがスニフチングバルブである。ただしこのバルブが吸い込める空気の量は、ピストンが吸い出す容量と比べると少ないので、蒸気管は減圧されて平衡状態となり、多少のエンジンブレーキが掛かる。ピストンバルブはこの点が不利だが、逆に、加減弁を閉じると止まるので、スライドバルブより安全性は高いと言える。実際、ピストンバルブのライブは、機械式ブレーキをほとんど使うことなく停車位置に止まることができる。ちなみに実機では、給気と排気を短絡するバイパスバルブというのがあり、惰行中はこれを開いてエンジンブレーキが掛かるのを防ぎ、燃費を向上させている。

スニフチングバルブライブのスニフチングバルブは逆止弁と同じ構造で、ステンレス球弁が用いられる。弁座の加工方法とシーティングに関しては、軸動ポンプの逆止弁を参照のこと。シリンダーの冷えを防止するためには、スニフチングバルブはスーパーヒータより上流に付けた方が良い。WILLIAMのオリジナル設計では、スニフチングバルブは煙室の側面よりやや下方に設置されており、ウェットヘッダーから配管が延びている。この方向だと、圧のかからない状態でも球弁が弁座を塞ぐので、常時閉となる。しかし配管を引っ張るのは面倒だし、さらに煙室側面に風穴を開けるのが嫌だったので、ウェットヘッダーに直接ねじ込んで、上に向けて出すことにした。この場合、球弁は常時開となり、加減弁を開いたときだけ球弁が上昇して閉となる。リークの可能性は増えるが、固着の可能性は減る。写真右の部品がキャップで、これの底に弁座が形成されている。写真では見えないが、球弁の落下防止のため、弁室側面から真鍮棒を刺して銀ロウ付けしてある。


最後に、配管の全体写真を示す。わかりやすいように、あえて煙室と煙室台なしで組み立ててみた。賢明な読者はお気づきのことと思うが、ブロアー配管の形が元の図面と違っている。図面にエルボ位置を書き忘れたためにこういう間違いが起こった。結局ここは現物合わせで何度も調整するはめになってしまった。上記「なるであろう」が、「なりました」になった・・・

煙室配管


(終)


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