2001年6月 「シリンダー木型」


シリンダーブロックの鋳物が1個手に入らないと報告したが、木型から作るならメーカー品と同じものにしてもおもしろくないので、ピストンバルブにすることにした(もともとはスライドバルブ)。シリンダーブロックからバルブギアに至るまで設計変更を加え、何とか目処が立ったので、まずは木型の作成から開始する。


【木型設計】

材料比較同好会で5インチC61を製作中の小山氏に、木型作りのノウハウを教わった。木型の材料としてはヒメコマツが一般的らしいが、同氏は種類を問わず適当な木片を見つけて、ノコギリと彫刻刀だけで仕上げるらしい。簡単なものなら1時間ほどでできるとのこと。私も早速チャレンジしたが、彫刻刀を持つのは中学以来であり、不器用さもあって思うように加工できない。結局これも機械加工に頼ることにした。であれば材料はサクラが良い。写真左がサクラ、右が通常の白木材をエンドミル加工したもので、これだけの差が出る。出そうと思えば0.1mmの精度も出せる。切削面はきれいで、ペーパー仕上げも不要なほどである。難点は値段が高いことで、定尺1本が数千円もする。大量に木型を作るには不経済だが、私の場合は小さいシリンダー1個だけなので問題ない。材木商からハンパモノを安く買って済ませた。

木型を作るには鋳込みの手順を知る必要がある−> Foundry Metal Casting

せっかくの鋳物なので、単純な楕円形ではなく、パーツを組み合わせる方式にした。すなわち、主シリンダーを形成する丸棒、その上にバルブシリンダーを形成する丸棒、その奥に排気ポートを形成するブロック、そしてこれらを左右から側板ではさみ込み、隙間をパテで埋めた形とする。シリンダー部分には「中子(ナカゴ)」を使って、鋳物の状態で穴を形成しておく。木型はシリンダー中心を縦に割った「合わせ木型」となる。位置決めピンである「ダボ」には竹ひごを使う。鋳込み時の縮みを考慮し、木型サイズは最終寸法より1%大きくする。機械加工で仕上げる部分は、2mmの仕上げしろを取る。木型を砂型から抜きやすくするため、全ての側面に5%の「抜き勾配」をつける。以上の前提で木型を設計した。


【本体木型】

芯材部品シリンダー心材は縦割りする形で「見切り面」(木型の分割面)が入る。この場合、まず角材2枚の見切り面を仕上げて仮接合し、ダボ穴を開けてダボを挿入し、旋盤で丸く加工して仕上げる(写真)。仮接合にはいろいろな方法があるが、両端の余剰部分を接着剤で貼ってしまうのが簡単である。その場合、中央部まで接着剤がまわらないように、見切り面に溝を掘っておくと良い。木材は柔らかいので旋盤でのチャックが難しい。両端にエポキシ接着剤でワッシャーを貼り、ワッシャーの穴を通るドリルで座繰りを入れ、ここを両センター保持する。回り止めは木ネジで充分である。金属加工とは比較にならないスピードで削れて実に爽快だが、放熱が悪くバイト刃先が異常加熱するので注意が必要である。続いて側板だが、これも先に見切り面を仕上げて仮接合し、面板に固定して心材が通る穴を開ける。見切り面のズレを考慮し、穴の直径は心材の直径より1mmほど大きめにした。隙間は後からパテで埋めれば良い。ピストン心材、排気ポート材は、材料の端部を平面に削って見切り面とする。以上の加工は0.5mmくらいの精度でやれば充分であり、金属加工の精度を出してもほとんど意味がない。

完成 完成(分解)

全ての部品を加工したら、木工用ボンドで組み立てる。まず片側の木型を定盤上に並べて接着し、乾いたらダボを入れて、ここに反対側の木型を組み合わせ、同様に接着する(見切り面を接着してしまわないように注意)。ただし形状によっては、仕上げしろを残して組み上げ、あとから見切り面を削り出す方が良い場合もある。組み立てが終わったら、ヤスリで全体を整形し、必要な部分に「木工用パテ」を塗る。パテは単なる隙間埋めだけではなく、段差部のコーナーのR付け、抜き勾配付け、加工ミス修正など応用範囲が広い。パテが乾いたらペーパーがけしてニスを塗り、またペーパー掛けして完成。


【中子取り】

穴開け完成こちらは逆に二枚の角材を張り合わせたものをボーリングして作る。針金で巻いて2枚を固定した。仕上げの方法は、本体と同様である。




【鋳造】

シリンダーブロックの材料はBC6(砲金)だが、木型作りよりも鋳物屋探しの方が大変である。私の場合、小山氏に高松市内の非鉄金属鋳造所を紹介してもらえたので、実にラッキーだった。今はどこも「機械込め」だが、我々のように1〜2個の鋳物しか必要がない場合は「手込め」をやってくれる小さい鋳物屋でないといけない。現在では非鉄金属の手込めができるところがほとんどなくなっているらしく、依頼した鋳造所でも西日本一円から注文を受けているらしい。
木型を持ち込んでからわかったのだが、中子取りは定盤上に立てて砂を詰めるので底は不要であり、さらに位置決めもダボは不要で、側面に添え木を貼っておけば良いらしい。

鋳物1ヶ月以上の納期を覚悟していたが、2週間で出来上がった。必要なのは2個だが、巣の出現、加工ミスなどをかんがみて3個頼んだ。価格はほとんど材料代だけで、英国から完成鋳物を買うよりずっと安くあがった。


ポート中子実は最初、中子でポートまで鋳込むことを検討したが、中子取りの製作が面倒なので断念した。参考までにポート中子の一例を示す。これを入れて鋳込むと、シリンダーブロック内部にこの形の空洞が形成されることになる。上の筒がピストンバルブ、下の筒が主ピストンのシリンダーで、上下が楕円形のポートで接続されている。ポートは上下のシリンダーの全周にわたって形成されているので、排気速度は飛躍的に改善される。バルクからの加工でこの形状を掘り出すのは不可能であり、鋳造ならではの構造である。


(終)


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