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2011年12月 「煙室(1)」



左右の蒸気室を出た排気は、エルボーで内向きにされて、中央のティーから吐出口に入り、煙突から吹き出される。エルボーは真鍮角棒から作製した。ティーは、真鍮丸棒を銀ロウ付けして穴を開けたものである。左右の蒸気の干渉を防ぐため、ティーの中央は完全には貫通しておらず、わずかな壁を残して、穴の上部のみ上の管につながっている。エルボーとティーは、両端にネジを切った真鍮短管で接続され、ロックナットで固定される。



吐出口は、シリンダーからの排気だけでなく、通風管からの蒸気通路も必要。吐出口先端に溝を切り、それを真鍮のリングでふさぐことで、円環状の空間を形成する。通風管の蒸気はこの空間に導かれ、吐出口の周囲から吹き出す。吹き出し穴は円周上に4個配置した。蒸気が真上ではなくやや内向きに吹き出すように、穴をわずかに傾けて開ける。通風管との接続には動輪舎のユニオン継手を利用した。加工後に全ての部品を銀ロウ付けで組み立てる。




排気ユニットは、真鍮の煙室底板を介して、シリンダーブロックに取り付けられる。こういう構造の場合、ネジの位相により位置が制限されて、取り付け誤差が出る。部品作成後に誤差が最小となる組み合わせを見つけ、残った誤差は、エルボーの取付穴を拡大することで吸収した。なお、ボイラーからの給気は銅管で導き、ユニオン継手で蒸気室に入れる予定。とりあえず蒸気室にねじ込むニップルのみ作製した。エルボーのすぐ内側にねじ込んであるのがそれ。



煙室底板はシリンダーブロックと密着している。熱容量の大きいシリンダーブロックを、煙室の熱で暖めるというもくろみである。排気ユニットと給気ニップルは、底板の固定もかねている。底板には当然ながら排気が貫通する穴が開いている。シリンダーが傾いているので、底板にも傾斜がつく。




煙室はドーム型で、前後妻板がフランジ加工される。ボイラーの外火室と同じ構造である。フランジ加工をするには型板が必要。レーザーカットした12mm鋼板を手配した。周囲に1mmの仕上げしろを残しておき、エンドミルで仕上げる。ついでにRカッターでフィレットも形成する。ロータリーテーブルを用いて加工した。



妻板材料は、2.5mmの銅板。ウイリアムのボイラー余剰材である。フランジを見越した分を切り出す。銅板を挟むための当板は、C53で木型定盤に使ったMDFボード(16mm)から作った。加工中のズレを防ぐため、銅板の中央部分(あとで切り取る)に穴を開けて型板にネジ止めできるようにした。当板の同じ場所には、ボルトの頭を逃げるための座繰りを入れた。



銅板をガスバーナーで焼きなまし、型板に取り付けて当板ではさみ、プラハンマーで叩いてフランジを形成する。万力のサイズが不十分で全体を挟みきれないので、上部は大型のシャコ万でクランプした。



加工後、希硫酸で酸洗いして酸化膜を除去した。ここまで曲げるのに、結局7回の焼きなましが必要だった。



ドームは1.5mmの真鍮を曲げロールでU字に曲げて作った。曲げる範囲を往復させながら少しずつ中央ローラーを押し込み、希望の半径に仕上げるのだが、曲げの開始・終了点にどうしても曲げの不完全な部分が残る。さらにロールを止めて放置しておくと、そこだけ局所的に深く曲がってしまう。不正確な部分は、妻板に強制的に固定することで修正する。



糸鋸で、煙突を通す穴を抜いた。通常の糸鋸では柄の部分が邪魔で丸く切れない。ここでは刃先を90度回せる糸鋸柄を使用したが、コの字部分を90度曲げた糸鋸柄をひとつ用意しておくと、柄を入れ替えながら一方向から円を切ることができる。ちなみにドームを曲げる前に穴を抜いてしまうと、きれいに曲げられなくなるので注意。



妻板に大穴を抜く前に、ドームと仮組みする。M2.6の小ネジとナットで組み立てた。穴位置は事前にドームにけがいておく。ドームと垂直に穴を開けるため、妻板の中心に穴を開けて、写真のようなセットアップで固定し、主軸は動かさずに加工物を回転させて位置を決めた。まず頂上から始め、左右交互に裾に向かって穴を追加していく。穴を開けたらすぐに締め付け、次の穴を開ける。板の浮き上がりを防ぐためである。



後部妻板には、サドルタンクを支える鋳物が取り付けられる。事前に、鋳鉄の鋳物を加工しておく。ロータリーテーブルで曲面を仕上げ、取付穴も開けておく。




鋳物を取り付ける穴は、妻板固定穴と兼用。ここは鋳物から穴を移し開ける。ネジはここだけM3を使用した。



仮組みが終わった煙室。この時点では内側からネジを通して外側をナットで締めているが、完成時は逆になる。



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