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2018年7月 「グレズレー式弁装置(3)」



グレズレーの大テコ受は、主台枠前端の前台枠鋳物に取り付けられているが、そこから主台枠・シリンダーブロックを介してバルブスピンドルに至るまで誤差が蓄積されるので、設計どおりの位置が最適位置になるとは限らない。シリンダーブロックの蒸気室前端面を基準にして、大テコ受の取り付け位置を割り出した。前後左右の位置は金尺で出し、上下位置はハイトゲージで出した。



大テコ受の位置が決まったら、前台枠鋳物を取り外して、取り付け穴(ネジ穴)を開ける。



各リンクを接続するピンを作成する。いずれも快削ステンレス製で、φ5のものは丸棒をそのまま使用し、φ7のものはφ8丸棒から旋削、研磨した。両側にネジを切って、ナットで固定する構造とした。



ボールベアリングの使用にあたっては、ベアリングを収める穴を、軽い圧入固さに仕上げるのが理想だが、加工が難しいのでロックタイトで固定することにした。接着剤がベアリング内部に入らないように注意が必要である。



弁調整は、蒸気室前蓋の前端を基準にして行うので、ここからポートまでの距離をハイトゲージで正確に測定しておく。



先ほどの測定結果をもとに、ピストン弁がポートを開き始める位置での、蒸気室前蓋の前端位置をけがいておく。前後のポートそれぞれについてけがく。実際の弁調整は、このマーキングを頼りに行う。



グレズレー弁装置の各部品は、複雑に入り組んでおり、ひとつずつ順番に組み付けようとしても組み上げられない。それぞれの部品を少しずつ最終位置に移動しながら、最後にまとめてピンを刺して、やっと組み上げることができた。



ここで、大テコ中央部の裏面と、中央蒸気室前蓋の底の腕部分が干渉することが発覚。原因は、中央蒸気室前蓋の鋳物の変形である。変形した状態で加工してしまっているので、曲げ矯正ができない。ヤスリで干渉部分を削り取った。大テコと前蓋と双方を少しずつ削った。



バルブスピンドルのケガキ線を頼りに、弁調整を行う(写真左)。以下、その手順を示す

  1. まず外側バルブから調整する。前進フルギアで、クロスヘッドの前後死点において、前後のポートの開度(リード)が等しくなるように、バルブ位置を調整する。具体的には、バルブピンドル後端のネジ部の、バルククロスヘッドへのねじ込み量を調整することで、バルブ位置を調整し、ロックナットで固定する(写真右)。左右の外側バルブそれぞれについて調整する。終わったら、後進フルギアで同じことをやり、同じ結果になることを確認する。もし差が出るようであれば、両者の中間(あるいいは少し前進優先)に調整する。ここまでは、通常のワルシャート式弁装置の調整と同じである。
  2. グレズレー弁装置を組み上げる。この時点で、中央バルブスピンドルは、中央のバルブスピンドルガイドに仮にねじ込まれた状態となる。それ以外の部分はロックナットで完全固定する。
  3. 中央バルブについて、1と全く同じ方法で位置の調整を行う。すなわち中央クロスヘッドの前後死点位置で、バルブの開度が等しくなるように、中央バルブスピンドルのねじ込み量を調整し、ロックナットで固定する。1との違いは、後方のバルブクロスヘッドにねじ込むか、前方のグレズレー弁装置にねじ込むかの違いである。




弁調整が終わると、いよいよエアテストとなる。エアの供給のため、専用の蒸気管接続用フランジを作り、コンプレッサーのエアチューブが接続できるようにした。動輪は浮かせた状態でテストするが、軸箱の下にスペーサーを入れて、各軸の高さを設計上の中立位置に合わせた。



バルブギアを前進フルギアで固定し、シリンダーにエアを供給する。圧力0.1MPa未満で動輪が回転し始めた。3シリンダーなので、動輪1回転あたり、6回の排気音が発生している。6打の間隔が均等になっていることを確認する。拍子が狂っていれば、弁調整がまずいということになる。手持ちのコンプレッサーのタンクが満タンの状態からエアを供給して、1分ほど回すとエアがなくなった。コンプレッサーを連続運転すれば何とか回転を続けられるが、騒音がひどいので長時間の運転はできない。とりあえず前進、後進、高速、低速で回して問題がないことを確認し、テストを終了した。

今回ばかりは、シリンダーの構造が複雑で、ちゃんと回ってくれるか不安だったので、無事に回ってくれて嬉しい限りである。実際の蒸気で回すといろいろと問題が出るかもしれないが、基本的な部分である「グレズレー式の3シリンダーエンジンをまともに回せるのか」という問題はクリアすることができた。


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ここまでで、予定の設計を使い切ったので、製作をつづける前に設計を進める必要がある。ということで来月はお休みをいただく予定です。

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