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2009年2月 「制動装置(4)」



ブレーキシリンダーはモデラで木型を作り、砲金鋳物を外注した。外径40mm、ボア25mmで、実機のスケールサイズよりひとまわり小さい。国内外のいろいろなライブスチームの設計を参考にした結果、スケールどおりだと力が強すぎると判断したからである。実機は空気ブレーキなので、設計をそのまま蒸気ブレーキに適用すると、機構に無理な力をかけることになる。



まず本体に取り付ける底面を仕上げ、ここを基準にしてボアを仕上げる。面板にアングルプレートを取り付けて加工した。同時に、片側のシリンダーカバー取り付け面も仕上げておく。このあと、シリンダーをひっくり返して反対側を仕上げる。最初に仕上げた面の方が直角度が正確なので、こちらを下(ブッシュ側)にする。



上下のシリンダーカバーは真鍮丸棒から加工した。外径は40mmでシリンダーの外径と一致している。下のカバーは、ブッシュ部分が延長された凸型をしている。



凸型の形状は、材料の関係でまず外径40mmと20mmの真鍮丸棒を銀ロウ付けして、ここから削り出した。バイトのステップ送り、テーパー送りでおおよそのシルエットを削り、ヤスリで仕上げた。ピストンロッドの穴は開けずに突っ切り、裏返して嵌合部を仕上げる時に、ロッドの穴(5mm)をドリルとリーマで仕上げる。




円周状のシリンダーカバー固定穴は、フライス盤のXY座標で位置を決めた。シリンダーにカバーを固定した状態でセンタードリルから始めて、ドリルでカバーを貫通、シリンダー本体には皿モミだけ入れる。すべての穴を開けたらカバーだけ取りはずして、本体に下穴を開けてタップを立てる。上下とも同様に加工する。念のため、カバーと本体の角度をあわせるマークをセンターポンチで打っておく。



ピストンは砲金製で、ピストンロッドはステンレス(SUS303)である。両者の接続は、WILLIAMの蒸気シリンダーと同じ方法とした。すなわちピストンの穴の半分をネジ穴、半分をロッドとの圧入穴として、ネジの力でロッドを引き込んで圧入する方法である。ピストンは全長を仕上げ、外径は仮仕上げして中央にネジ穴を開け、中繰りバイトで穴の半分だけロッドとの圧入固さに仕上げる。心押しにチャックしたロッドをここに入れ、ネジがかみ合ったところで主軸を回してロッドを引き込む。



最後にピストン外周を仕上げる。センターを正確に出すため、ダイヤルゲージを用いて四爪チャックし、先端は心押しして加工する。外径はボアに対してややルーズに仕上げた。続いてOリングを入れる溝を突っ切りバイトで仕上げる。ピストンはスプリングの力で復元するので、弱い力で動かなければならない。Oリングつぶししろは、かなり少なめの0.1mmとした。ちなみにピストンの先端は、上死点でドレンを横から排出できるようにテーパー形状になっている。



ピストンと下カバーの間には復元用のスプリングが入り、ロッド先端には、3.2mmの鋼帯板を曲げて作ったクロスヘッドが接続される。接続はネジ式で、ロックナットで固定される。蒸気加圧時にピストンが下がり、圧を抜くとスプリングで復帰する。下カバーには空気抜きの穴が必要。スプリングは例によってバネ用ステンレス線を旋盤で巻いて作った。ここの力が弱すぎるとOリングの抵抗に負けて復元せず、強すぎると制動力のロスが大きくなる。線径0.9mmで外径10mm、復元力は約1kgとした。



クロスヘッドと左右の制動腕を接続する部品は、レーザーカットの厚板を加工して作った。横長の釣合梁は、クロスヘッドに接続した状態で前後に傾かなければならない。中央の穴を両側から中繰りでテーパー加工することで対応した。




組み立てたシリンダーを制動腕と接続した状態。シリンダーの背後の板は、主台枠から取りはずした中間梁である。動輪をはずさずにスポークの間から固定ネジを抜くことができるので、シリンダーのメンテナンス時は、制動腕さえはずせば、中間梁ごと下に引き抜くことができる。蒸気はどこから入るかというと、自動ドレン弁を介して横から入れるのだが、上まわりを設計しないと位置を最適化できない。自動ドレン弁の製作・取り付けは先送りとする。



ブレーキシリンダーを含むすべての機構を下まわりに組み込んだ。ブレーキシリンダーは第三動軸の直前となる。乗っているレールは半径7.5メートル軌道。制輪子は動輪横動によく追従してくれるが、この状態でブレーキを緩めすぎると、第二制輪子が動輪からはずれてしまうことがわかった。制輪子の断面形状は実物どおりにしたのだが、それだと動輪フランジへの引っかかりが弱く、2mmも横動させるとフランジを乗り越えてしまうのだ。



苦肉の策として、第二制輪子の裏に、フランジに引っかける板を取りつけた。予備の制輪子も同じ形状に仕上げてしまったので、交換時は同じ対策を取らなければならない。板は使いまわせるだろう。



制動装置完成。これにて当初の設計分はすべて製作を完了したことになる。



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