目次 / 前月 / 次月

2008年8月 「動輪組立(2)」



第二動輪の中央クランクは、鋳鉄と丸棒から組み立てる。車軸は作製済みなのでクランク鋳物の加工から。まず鋳物の車軸穴でおおよそのセンターを出して四爪チャックし、裏面を仕上げる。そしてそのまま車軸穴を中繰りで仕上げる。



続いてクランク軸穴を仕上げるのだが、車軸とクランク軸の軸距を正確に出すため、写真のようなヤトイを面板に固定し、ここに鋳物を取り付けて仕上げた。ネジ止めされた歯車は、いつものバランスウェイトである。





クランク鋳物に、ロックタイトで車軸とクランク軸を接着する。クランク軸は両端をわずかに段差加工し、クランク鋳物の間隔を正確に出せるようにした。車軸については、途中に2mmのピンを立て、ここに突き当てて接着することでクランク鋳物が正確に中央に来るようにした。



二気筒のワルシャート式であれば、左右のバルブギアは完全に独立しているので、左右の位相差が89度や91度になっても、どうということはない。しかしグレズレー式の場合は、左右の弁の動きを合成して中央の弁を動かすので、左右の位相差は正確に120度でなければならない。動輪3軸の位相を揃えるのは当然のことである。第二動軸のクランク軸を基準にして左右のキー溝を切り、それに合わせて第一第三動軸のキー溝を切るという方法を取った。


フライス盤のステージにヤゲン台を2台固定し、ここに第二動軸を載せて、クランク軸の下に高さゲージを置いて角度を出す。ゲージの高さはCADで作図して求めた。写真では見えないが、向こう側に、真鍮丸棒から作った高さゲージ(右写真)が隠れている。そして5mmのエンドミルを正確に車軸中央に位置決めして、第一のキー溝を切る。エンドミルがマイナス公差なのでそのままだと動輪のキー溝よりわずかにせまくなり、Y軸を0.03mmほど移動させて溝を拡大した。反対側のキー溝も、別の高さゲージを使用して同様に切る。すなわち、左右の位相は、中央クランクを基準にして個別に出すことになる。



じつはこの時点でとんでもない間違いを犯していた。その内容は次回に紹介するが、ここまでの写真を注意深く見れば、分かる間違いである。



セットアップをばらす前に、左右のキー溝の位相差を治具に写し取る。続いて加工する第一第三動軸の位相差を出すためである。治具は、30度の斜面を持った平鋼の上を6mmの角棒がスライドし、さらにその上を別の平鋼で押さえ込んで角棒のガタを取る構造になっている。角棒の先端はキー溝の幅に加工されている。角棒がキー溝に入った状態で治具の斜面に密着するように、治具を固定する。角棒を完全固定にしてしまえばもっと精度が出るのだが、第一第三と第二とで軸端部の直径が異なるので、このようなスライド式にせざるを得なかった。



第一第三動軸は、まず片方のキー溝を切り、この治具で角度を合わせて反対側のキー溝を切る。これで3本の動軸のキー溝は、完全に位相が揃うことになる。



第二動軸のクランク鋳物を永久固定するため、4mmのロールピンを打ち込んだ。軸のガタが生じにくいように、1ヶ所について2本打ち込んだ。これで第二動軸は分解不可能となる。



最後にバンドソーで車軸中央部を切り落とし、エンドミルで突出部を削り取って仕上げた。





6mmの角棒からキーを作った。厚さはキーを入れる角穴の高さより0.1mmほど少なめにした。幅はキー溝の幅より0.1mmほど厚く仕上げ、ヤスリで追い込んでキー溝に打ち込める固さに仕上げた。キーの長さは、動輪の厚さの半分程度とした。ここで動輪と車軸をすべて仮組みし、キーを奥まで打ち込んでガタが出ないことを確認しておく。仮組みの分解には、真鍮丸棒を介して車軸を動輪から叩き出せばよい。この時点で、すべての動輪、車軸、キーは組み合わせを決めておく。



鋳物のスポーク根元など、木型を抜きにくい部分に巣が散見されたので、パテ埋めをした。使用したのはデブコンという二液混合の金属パテで、鋳物の修復によく用いられるものである。固着後には金属と同様の加工をすることができる。動輪をシンナーで脱脂し、アセトンで濯いでから実施した。アセトンで仕上げたのは、シンナーの皮膜が塗装の密着力を低下させると言われているからである。



磨き出し部分に紙でおおよそマスキングをして塗装をした。今回も、二液混合ウレタンスプレー(デイトナ 耐ガソリンペイント)を用いた。表と裏をそれぞれ二度塗りした。



再び動輪加工治具に取り付けて、磨き出しを実施。リムはサンドペーパーを貼った角材を押し付けて研磨し、ボスは、MDFボードにサンドペーパーを貼り付け、心押しで押し付けて研磨した。カウンターウェイトの塗膜に傷を付けぬよう、布ガムテープを貼って保護している。



目次 / 前月 / 次月