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2008年6月 「動輪切削(2)」



タイヤコンタは、先従輪と同様に、CADで座標を計算して、XYダイヤルの一覧表を作り、それに従って削る。先従輪のフランジは見るからに薄く、これをそのまま動輪に適用するのは不安だったので、動輪は形状を少し変更した。フランジのテーパー(トレッド側)を10度から20度に増やして、その分、フランジを厚くした。図の赤い線が変更後のタイヤコンタである。軌道上での横動が減ることになるが、計算上はそれでも半径7.5メートルを通過できる。



最終寸法から0.25mm直前まで荒削りをしてから仕上げた。治具のリング部分の外周は、フランジの外周といっしょに削り、直径を合わせた。ここを基準として、6枚の動輪をすべて同じ直径に仕上げるためである。



フランジの裏面側は反転して仕上げる。こちらも同様にバイトを微動させてシルエットを削った。最後にトレッドをテーパーに削って、前端に面取りを入れ、バイト微動でできた段差をヤスリで削り取り、サンドペーパーで仕上げた。さらに裏面のスポーク部分と、カウンターウェイトの周囲のエッジ部分を、ヤスリで面取りした。塗装の剥離防止のためである。



続いて、ヤトイを第一第三動輪の穴径25mmまで削り、第一第三動輪を加工する。工程は第二動輪と同じなので省略するが、第一第三動輪はカウンターウェイトが小さくてボスの半径範囲に干渉しないので、偏心加工の必要はない。トレッドの直径は、先に述べた方法で、厳密に第二動輪に合わせた。



動輪の切削をしている時に大トラブルが発生した。減速ギアから嫌なきしみ音が聞こえ始め、油を差しても収まらず、そのまま作業を続けていると、急に音が大きくなって程なく主軸が回転停止! 点検すると、ギアボックス底の減速ギアが、軸にかじりついて回らなくなっている。歯の横に角棒を当ててハンマーで軽く叩いてみたが全く回る気配がない。ここの部品を外すためには、その上の主軸をばらさなければならない。取説を片手に構造を解明して、何とか主軸スピンドルを抜き取ることができた。写真はその状態で、底に残っているのが問題の減速ギアである。



減速ギアは偏心軸を使って上下動するようになっている。主軸の下にあるレバーがそれで、根もとの丸い円盤がギアボックスを貫通する軸であり、その中の注油ニップルのある位置が、偏心したギア回転軸の中心である。注油ニップルの穴はギア位置まで続いていてギアを潤滑する。そういえばここにはずっと注油してなかった。レバーの下の長穴に注目。キリコはどうやらここから侵入した様子である。ギャップに溜まったキリコを箒で払う際に、キリコが飛んで上の軸に付着したのだろう。この穴は塞いでおいた方が良い。



ギアを固定しているEリングを外し、軸を右に叩き出そうとしたが、固くかじりついてびくともしない。やむなくM12ボルトとナットの組み合わせで、軸を力で押し出した(ダイスホルダーをスリーブ代わりに使用)。大型スパナで力を入れてようやく動くほどの固さであった。ちなみに、マイフォード旋盤のギアは、中心に砲金のブッシュが入っているが、ここに限っては入っておらず、鉄と鉄の組み合わせである。



抜いた軸を見ると、根もと付近に1周、ひどい傷が入っている。ギアの穴にも同じ傷が入っており、侵入したキリコに削られたと思われる。さらに傷位置から縦方向に軸の先端まで傷が続いており、これはさきほどギアを抜いたときの傷だろう。代わりの部品はないのでこれをこのまま使うしかないが、ギアを入れようとしても全く入らない。油目ヤスリで軸と穴の傷周囲の変形を削り落とし、押し込み固さになったところで、軸にピカール(金属研磨剤)を塗ってしつこく摺り合わせて、やっと軽く回るようになった。グリスを塗って組み合わせ、逆の手順で主軸まで組み立てる。部品は新品を注文したが、英国製なので例によって納期が相当かかりそうである。次に壊れたときに交換する予定。


鋳鉄のキリコが摺動部に入るとトラブルの原因となる。スライダーや装置内部に侵入しないように注意が必要である。じつは以前、WILLIAMの動輪を削っていた時も、急に主軸が回らなくなるトラブルが発生した。その時は主軸をガタガタやっているうちに軽く回るようになり、原因は特定できなかったが、恐らく今回と同じ原因だろう。


やっと動輪の切削が終了した。問題は、これをどうやって正確に組み立てるかである。


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